売春の自由党→ UNIDOS → SWASH の歴史(その2、第二版)

宮台真司:性の自己責任論という罠
日本のこどもを SWASH から守ろう 2023.03.24
誰でも

1.要約

2.売春擁護から買春擁護へ

ここまでは前回配信(その1)をお読みください。

3.宮台真司は児童売買春を奨励していない

以後(その3)に続きます

4.従軍慰安婦問題との関係

5.なぜ LGBTQA なのか?:20世紀へのノスタルジー

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3.宮台真司は児童売買春を奨励していない

宮台真司は20世紀末から21世紀初頭、ブルセラ、援助交際、パパ活の論客として騒がれました。しかし彼は児童売買春に一貫して反対しています(「自己決定原論:自由と尊厳」、宮台他『〈性の自己決定〉原論:援助交際・売買春・子どもの性』、紀伊國屋出版、1998年:261-272)。この姿勢を撤回する言論は見つけられていません。私はこれに賛成します。

ですが彼の個人買春合法化の議論は不完全です。売春者を罰するなという主張には賛成します(同上:263-264)。しかし私は個人買春を現状の軽罪ではなく重罪とし、執行猶予なしの懲役刑に処することを求めます。前回の「2.売春擁護から買春擁護へ」に記したとおり、彼の議論は20世紀末のテレクラや伝言ダイヤルの時代に立てた時代遅れのもので、現状に即していません。

宮台はいまでは自称リベラルのジャーナリストにネットで担がれているだけで、有名人ではなくなっていますね。ホリエモンやひろゆき、最近だと星野ロミの方が知名度は高いでしょう。

とは言え彼が1998年以降、一貫してこどもの性教育に本格的に取り組んでおり、一部から批判が出ているのは事実です。ただ、ここまで登場した人々とは違い、宮台真司は学者です。彼の博士論文はきちんとしています。表面的なイメージで非難すると大怪我をしますよ。

宮台については別のニュースレターでじっくり考察をしていく予定です。上に述べたこと補足して、2つのことを指摘しましょう。まずに宮台の性の自己決定権は、彼を批判する人がよく援用する小松美彦の自己決定権と定義が異なるので、反論として用いるのは不適切です。そして私が宮台真司を支持しないのは、彼がある時期から質問に答えないおじさんになったことが1つの理由です。

自己決定権からいきましょう。宮台真司は社会システム理論学者として、この言葉を「他人に迷惑をかけない限り、たとえ本人にとって結果的に不利益がもたらされようとも、自分のことを自分で決められる権利」と定義し、18世紀スコットランド道徳哲学、19世紀英国自由主義哲学の「自由」をめぐる議論の中で生成されたものだと説明しています(同上:252)。加えて自由と尊厳の関係について、社会的合意を形成する困難を考察をした上で、ゲルマン法の立場に対抗してアングロ・サクソン法理に則り、自己決定権を自由の「保護規定」として捉えることを提唱します(同上:252-260)。

上の段落を理解できずに宮台を批判しても返り討ちに遭うだけです。この議論を深めるのは本ニュースレターではもっと後に行いますが、ここでは彼が自分の言いたい放題をまき散らすネット言論人とは一線を画すことだけを覚えておきましょう。

一方、小松美彦は科学史、生命倫理学の専門家です。彼の名著『【増補決定版】「自己決定権」という罠:ナチスから新型コロナ感染症まで』(現代書館、2020年)は、聞き書きではなく書き下ろされた「増補第3章 新型コロナ感染症禍の現在を抉る:「新日本零年」に向けて」(299-364)が圧巻で感動しますが、ここでは敢えて立ち入りません。小松の定義が宮台と異なることの指摘にとどめます。

小松の自己決定権はウッドロウ・ウィルスンが第一次世界大戦期に提唱した民族自決由来のものです。私自身はウィルスンを批判する立場ですが、小松の定義とは異なります。現に彼の著書ではウィルスンの名は登場しません。

彼は自分の専門領域に則って、医療倫理の用語として自己決定権(right to self-determination)を用いています。そして妊娠中絶の合法化もこの概念によって米国で実現されたと指摘しています(同上:17-19)。そして自己決定権が日本に導入されるに当たり、フェミニズムの運動が関わっていると展開します(同上:27-29)。その上で新自由主義がグローバリゼーションと共に、日本の知を「アメリカナイズ」していき、英語中心主義の知が日本を覆っている現状に意義を申し立てるのです(同上:29-33)。

補足しますが小松は人工中絶に賛成とも反対とも言っていません。「補遺第3章」に明らかなように、彼は自分が固まった意見を持てない場合には留保し、事実だけを述べる姿勢を貫く、誠実な学者です。前回述べたためらいを自分の中に持ち続けられる人物として、私は評価しています。

定義が違う言葉を、たまたま同じ語だからと比較して対立させることは、絶対にしてはいけません。定義はすべての学問で何にも優先して行うもので、それを無視して切り取ってぶつけ合うことは野蛮な行為です。同時にここまでの話をすべてすんなり理解できた方には、大陸法対アングロ・サクソン法の権利概念の議論が可能だと気付かれる向きもあるでしょう。それはこのブログで論じると本筋を外してしまうので触れません。

私なら政治哲学者、田中智彦の主張で宮台に反論します。彼は小松とは異なる視点から脳死と児童虐待の関係を例に採り、脳死の合法化がすべての病気を自己責任に帰し、科学と法制化が暴走したとき「してはいけない」という倫理規範が効かないと警鐘を鳴らします。加えて多数者の専制の結果、自分の生死を他者が決めることとなっている現状を、「民主主義的野蛮」と非難してます(「知っておきたい、考えたい、脳死・臓器移植13のこと 〈9〉-〈13〉」、小松他編『いのちの選択:今、考えたい脳死・臓器移植』、岩波ブックレット、2010年:30-48)。

宮台の唱える自己決定権は自己責任論と表裏になっており、彼の主張に反して新自由主義であります。それに対し、田中が怖れる法制化と「民主主義的野蛮」の関係は、ネットを介してグルーミングやデジタル・タトゥーなどで、他者の手で自分の身体を侵犯される現代の危機にそのまま応用できるのではないでしょうか。

次の問題点に移ります。宮台真司は、1998年に自分が行った主張が現代に有効か尋ねられても答えずにはぐらかしてしまいます。更に問い詰める対談者、聞き手はいないのです。ここに書いたものを公開質問状として提示したところで、宮台と議論は成立しないでしょう。残念なことに。

一例だけ挙げます。AV 出演強要問題が表面化してきた2017年、「複数のAV レーベルを主宰」し「ソフト・オン・デマンド若手監督のエロ顧問も務める」二村ヒトシという人物が宮台と対談本『どうすれば愛しあえるの:幸せな性愛のヒント』を刊行しています(KKベストセラーズ、二村の経歴は本書奥付より)。ここで二村は宮台にこう尋ねます。「現在では AV の出演者になるということは、その映像が半永久的にインターネット上のどこかに残る可能性があるということを意味します。完全に消去して「なかったこと」にすることは不可能です」(226)。

この質問自体、AV で儲けている人間が口にしている段階で開き直りにしか聞こえません。対する宮台の返答を要約します。いわく、AV の出演後契約解除の法整備は必要だ。更にいわく、〈性愛の営み〉への抑圧と差別が「AV 出演後に後悔する女」を量産する(226-231)。

途中の論の展開は、先に掲げた「自己決定原論:自由と尊厳」と同じで、児童買春の厳罰化をより明確に主張しているだけなので省きます。ですが、契約解除があっても、AV 出演後に後悔しようがしまいが、AV がネット上に残る事実は変えられません。つまり宮台は二村の問いかけに答えず、1998年の自説の繰り返しに終始し、反論するものを〈性愛の営み〉を抑圧し差別していると非難している。彼は AV 産業維持をほぼ無条件に支持しているのです。

彼は繰り返し「差別と抑圧」は性の自己決定権を阻むと述べます。では何を差別し抑圧しているのでしょうか。AV を作り、買春をすることを差別し抑圧していると読めませんか。

ここに前回の要友紀子と同じからくりが明らかになります。宮台の言う性の自己決定権論は、性の自己責任論となり、視姦し買春する人間を解放する運動と成り下がったのです。本来緻密な社会システム理論学者で、豊富な知識も学識も持つ人が、時代の変化を見ずに、自説にこだわり社会に発信し続ける有害性の最悪の例として記憶しておきましょう。その姿はソ連崩壊後も社会主義運動に執着する、革マル左翼にも似てないでしょうか。

平成は終わったのです。

次のメールマガジンにて、今回のつづき(その3)を配信します。

2023年3月24日 初版

2023年4月2日 第二版

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